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 結局白馬はそのまま学校を早退したようで、教室には戻っては来なかった。
 しばらくは白馬の様子を窺おうと隠れ家によらずにまっすぐに家へと帰る。自宅に着いたとき、郵便受けには大きな茶封筒が詰め込まれているのを見、それを取り出して家へと入る。

(何だ・・・・?) 

 宛先も差出人も何も書かれていない見るからに怪しい郵便物の封を慎重に切る。

「『倉庫爆破事件の重要書類』・・・・?」

 パラパラと捲ると最後のページに一言付け足しのように文字が書かれていた。

『これが彼の事件の全てです。』

 その一文で分かった。白馬だ。いったい何のつもりだと彼の真意は解らないが、せっかく貰えた情報を無駄にすることも無いのですぐさま読み進める。

 まず第一に、匿名の情報提供。 ありとあらゆる資料を探ってみたけれど、その提供者が誰であるか突き止めたものは無かった。 その情報がもとで、多くの損害を生み出してしまったのだから警視庁も血眼になって探しただろうに、その人物はおろか、候補すら挙がっていなかった。
 第二に、その日工藤新一が担当したという事件の結末が、犯人の自首というのは何ともおかしな話してある。 いつものように彼が現場に足を運び、証拠を集め推理し犯人を追いつめ、その後犯人が自白し解決という段取りではなく、まだ証拠集めの段階で犯人自ら名乗り出たというのだ。
 そして第三に、取引現場で売人たちは証拠隠滅のため倉庫に火を放ったとメディアでは言われているが、それにしては火の威力がおかしい。 倉庫全体が炎に包まれ、崩壊するまでに要した時間はほんの十五分という短時間の間で起こっていた。
 ただ火をつけただけなのであれば、いくら老朽化が進んだ倉庫であってもあれほどまで早く炎が建物全体を包むなんてあり得ない。 もし、そんなことが出来るようにするためには強力な威力、例えば爆弾の様なものが必要になるだろう。

 爆弾。

 そんな物がいくら大手麻薬組織とはいえあっただろうか。 後ろ盾か何かがあれば話は別だが、そんな情報はなかった。けれどもし、警察が突き止められない程の情報網がある組織がバックについていたとしたら。そしてこの事件の真の目的が、工藤新一の殺害だったとしたら、全てが繋がる。
 背筋に冷たいものがながれる。
 これほどまでに残虐な計画を立ててまで工藤新一を消そうとしたなんらかの組織。 それ以上に、それほどまで大きな敵をつくってしまった工藤新一。
 彼が今もなお身を隠しているのは、敵の目を完全に欺き切れてはいないからだろう。 工藤が提示した一週間という括りは、足がつかない最低限の期間なのかもしれない。
 一週間という短い期間で居場所がばれる可能性があるということは、裏を返せばそれだけ敵の情報網は侮れないという意味だ。


 ぎしりと寄りかかった椅子の背もたれがなった。 仄暗く光るパソコン画面から目を離し、ぐったりと低い天井を見上げる。
 現状を甘く見たわけではない。 けれども、実際に確認してみると、どうしてもやるせない気持ちを抑えることが出来なかった。
 彼はまだ17才なのだ。 いくら探偵という数奇な職業であったとしても、その歳でもうすでに死を装わなくてはいけないなんて。 快斗自身もいずれそういう運命を辿るかもしれないという、ある程度の覚悟をして怪盗KIDの衣装を纏っているがしかし彼は、ただの探偵のはずだ。 何故ここまで執拗に命を狙われているのか、その事を警察は知っていたのかという疑問は未だに答えあぐねている。

 工藤ではない誰か。誰か。工藤を追っている誰か。誰か。だれが。(最後のピース)
 ぱちりと回路が繋がる。


 ゴーンゴーンゴーン
 時計の音に心臓が飛び跳ねた。全く、落ち着けよ。何びびってるんだ。
 そこではっとする。今は何時だと振り返り時計を見るともう九時。工藤はまだ帰ってきていない。まさか。

 気が付いたら階段を駆け上っていた。たいした距離でもないのに息が異常に切れる。心臓が踊る。
ドアが壊れる程の勢いで開ける。部屋は真っ暗で、人の気配はない。いつもの快斗の部屋だ。ぼろい鞄も、汚れた靴も、ない。どこにも。四日前の快斗の部屋に戻っていた。なにもない。工藤新一がいたという痕跡が、跡形もなく消え去っていた。





――どれくらい居るつもりなんだ?

――最低でも1週間。長くて一月かな





(真実は何処に?)    (ここじゃない何処かに)  (うそうそうそ)