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 空は青く広かった。予報では一日中晴れでその通り雨は降りそうにもなかった。良いことだと思う。晴れていた方が、陰気な話も心も少しは緩和できる。
 収穫は無かったが、種はまいた。十分すぎる程に。 恐らく予想以上に白馬からの情報が重要なものとなるだろう予感があった。
 ちらりと白馬を窺う。まだ混乱はしているが、恐らく今は何も話すつもりではないようだ。 ならもう用はない。
 寄りかかっていた網から離れ歩き出す。

「黒羽君、どこへ?」
「どこって、」

 教室、というのと同時に予鈴が鳴る。 今日は白馬にこれでもかと言う程キッドに関する情報を与えたのだから文句はないだろう。

「君は、工藤君の味方ですか。」

 おかしな質問だ。思わず嘲笑がこぼれる。

「俺は、工藤の敵じゃあない。」

 けれど味方とも言い切れない。彼が探偵であるという以前に、工藤は誰かの助けを必要としていない。寧ろ迷惑だというだろう。

(でも、それはこれからの俺のがんばりでどうにかなるかもしれないし)

 あくまで今は、なのだ。



 白馬を一人屋上に残したまま足早に階段を下りる。本当はこのまま隠れ家に直行したいけれど、白馬の今後の出方も知りたいのでもうしばらく学校に留まろうと考えを改める。 桜花美術館にだした予告状に記した犯行日は2日後の午後7時ジャスト。 彼があの暗号をもう解読したのかは解らないが、どちらにしても白馬は快斗がキッドであるという考えをより確固たるものにしたのだろうから、今後どんなふうに快斗と接するか、大いに興味がある。

 教室ではまだまだみんな席に着かずに、おしゃべりを続けていた、いつも通りだ。 席について辺りを見わたす。青子は相変わらず仲良しの女の子と一緒にだべっていたけれど快斗が戻ってきたのに気づき、ひらひらと手を振ってきた。 馬鹿にした様な顔で振りかえすと、ノートを投げられた。

「痛ってぇなアホ子!なにしやがる!」

「快斗が悪いんでしょっ。青子のせいじゃないもん!」

 始まった言い争いに、周りはいつものことだと止めるどころかはやし立てている。 物が飛び交う中キーンコーンと間の抜けた開始のチャイムが鳴り、傍観を決め込んでいたクラスメイト達もようやく止めにはいる。 一時間目の現代の先生は、時間に厳しくチャイムが鳴りやむとほぼ同時に教室に入ってきた。


 ふと視線を感じて振り向くと、鋭く快斗を見据える目とかち合った、紅子だ。 これ以上おかしな予言をもらうなんてたまったもんじゃない。 急いで視線を外そうとするが、首がぴくりとも動かない事に気が付く。

(紅子のやつ・・・!)

 いったい何のつもりだと視線で問えば、ゆっくりと紅子の口が開いた。

 す く い の て を

 音にならない言葉であったけれど、読唇術の使える快斗にとっては、読みとるのは容易い。

(『すくいのて』だぁ?)

 意味が分からない。けれど彼女はもう視線を逸らし、快斗の疑問に答える気は全くないようだ。 これだからいけすかない。忠告しておきながら、今もこうしておかしなことを言って、余計に混乱させるようなことをいう。

「こらさっさと席に着きなさい。授業を始めるぞ。」

 まだがやがやとしている生徒に向かって叱咤している様子を見なが、いつの間にか自由になっていた首を未だに空席のままの机に向ける。
 白馬はまだ屋上から戻ってきてはいない。