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 朝彼が言った通り、工藤は家にいた。靴は快斗の部屋に(一応気を遣ったのだろう)広告の上にちょこんと置かれていた。
 快斗が帰ってくるまで電気も付けずに部屋の隅で気配を殺しじっと待っていたのはさすがだ。それも、快斗ですら気づかない程、完璧に。

「ごちそうさま。」

 行儀良く手を合わせていう姿は、なんというか、かわいい。 本人にいったら、殺人的威力のある右足が即座に襲ってくることは目に見えているので言わないけれど、母親似のせいなのか、快斗とさほど体格に差があるわけではないのにどことなく華奢な感じがする。

「・・・・・・あんま食ってないからかねぇ。」
「あん?」

 独り言のつもりでぼそりと呟いた言葉は、良いのか悪いのか、工藤の耳に届いてしまったようだ。

「もっと食えっていったんだよ。」
「そんなに食えるか。」
「いっぱい作ったのに・・・。」
「じゃお前が食えばいいだろ。」

 それをきいて更に眉がひそまる。
 快斗が帰ったのは結局6時半をまわってからだったが、工藤がなんと朝から何も食べていないといったので、急遽予定を変更して3人前のチャーハンを作ることにした。
 出来合いものだったけれど、そのわりに味はいいと思うのに、工藤は半分程食べただけでもう手を合わせてしまっている。

「・・・工藤さ、もうちょっと・・・・・。」
「あ。そういえば、お前のお袋さんどうしたんだ?全然帰ってくる気配無いけど」

 おやと思う。演技かと工藤をうかがうけれど、変わった様子はなく、逆にその蒼い瞳にこちらの嘘が暴かれるような錯覚に陥り、慌てて視線をずらす。

「母さんなら旅行に行ってるよ。」

 快斗が学校に行って恐らくすぐに旅行に行ったのだろうから、その後にこの家に侵入した工藤が知らなくて当然かもしれない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 

 いやちょっと待て。工藤が侵入したとき、快斗の母が居なかったということは、家の鍵は閉まっていたはずだ。 いくらどこか抜けたところがある母だって、鍵くらい閉め忘れることは無いだろうし、合い鍵は快斗も持っているためポストや何処かに鍵を置いてあるはずもない。
 だとすると、工藤はいったいどこから家に入ったのだろうか。
 嫌な汗が頬を流れる。 母は普段近場のスーパーに買い物に行くときは玄関の鍵を閉めるだけだが、旅行など長い間家を空けるときは家中の戸締まりを確認していく。勿論、快斗の部屋も例外ではない。

 ということは、まさか。

「・・・なぁ工藤、お前どこから家に入った?」
「どこって、普通に玄関だろ。」

 びしり、と快斗の体が固まる。彼は全く他意のない様子で答え、それがやけに恐ろしくきこえた。 いやでも、もしかしたら鍵が開いていたのかもしれないワケであるし。

「あ、心配しなくても鍵は閉まってたぜ。」
「・・・・・・・・・・は・・・?」

 工藤は何を勘違いしたのか快斗にとって最も聞きたくなかった事実をさらりと言う。ききたくないという快斗の願いも、新一は無情に切り捨てて言う。
「あのー、ちなみにどうやって鍵開けたの?」
「そんなのコレ使ったに決まってんだろ」

そう言ってポケットから出したのは、何の変哲のないヘアピン。けれど、それを使ったということはつまり。

「ピッキングしたのかよ名探偵!」
「今のご時世それくらい誰でも出来るだろ。てか俺は名探偵じゃねえ」

 ということは、工藤にとって鍵はあって無いようなものだということだ。
 こめかみを押さえる。ああ本当に頭が痛い。