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 その日、大手の麻薬組織が無人倉庫で取引をするという情報が匿名で警視庁にあてられた。 情報の裏もとれ、事件が解決し暇を持てあましていた工藤新一もその捜査会議に参加することになった。 危険な事件であったけれど、実際に踏みこむときには彼は離れた車の中で待つということて許可された。
 けれども、想像以上に麻薬組織の抵抗が激しく、ついには証拠を隠滅するために用意してあったガソリンに引火させ、倉庫は炎上。現場は地獄絵図と化した。 そんな大惨事を目の前に、工藤新一がじっとしていられるはずがなく、いまだ火中の倉庫のなかにいるひとを助けようと、自らの危険も顧みず飛び出していった。

 そして、工藤新一は死んだ。

 最期まで、一人でも多くの命を助けようと燃えさかる炎も恐れずに倉庫へ入っていき、ついに耐えきれなくなり崩れ落ちた柱の下敷きとなって。
 それが、快斗の知っている工藤新一の最期だった。
 メディアでは勇敢な高校生探偵の死を大々的に報道し、多くのひとびとが涙した。けれど、どれもこれも視聴率重視のためか工藤新一をまるで聖人の様にとりあげ、快斗の知っている工藤新一とはほど遠く別の人のようだと思った。 快斗自身が彼をよく知っているのかというと、決してそうではないが、少なくとも一度だけ対峙したあのときの彼が本来の姿に最も近かったとおもう。
 最近ではもうほとんど見なくなった工藤新一によく似た人物。

「工藤新一じゃないなら、アンタどちらさん?」
「なんだと思う?」
「・・・・幽霊?」
「んなわけねぇだろ。」

げしりと容赦なく蹴られる。結構痛い。でもそんな行動全てが彼が工藤新一であるとあらしめているように思えてならない。

「じゃ名前は。」
「なんだと思う?」
「・・・工藤新一」
「だから違うって言ってんだろ」
「違うんだったら、あんたの名前はなんなのさ」
「さぁ?」

 はぁとため息が出る。鼻にわずかに香りが届き、眉をひそめる。いい気がしない臭いだ。それとなく周囲を見わたす。

「じゃ、俺が勝手に付ける。工藤新一。」
「だから、俺は」
「分かってるって。でもアンタ名前言いたくないんだろ?だったら何でもいいじゃん」
「・・・・・・・・。」

 勘が目の前でふてぶてしく座る彼と工藤新一がイコールだと訴えているけれど。では、死んだとされている工藤新一は、いったい誰なのだろうか。
 どう?と聞くと彼はしばらく考えを巡らせたあと、「・・・・ま、いいけど。」と小さく答えた。

 あぁまずい。
 もしかしたらとんだ爆弾を抱えてしまったかもしれないのに、にやける口元を押さえることができない。 ただ、もう戻る事はできないだろうなと漠然と思ったが、同時に後悔もしないと誓った。

 タダでここに置いておくわけではない。 彼が快斗の秘密を暴いたように、いずれ快斗も彼の秘密を暴こうではないか。
 期限付きのゲーム。対価は情報。利益も情報。 快斗の持ち札はずいぶん少なくなったけれど、それでもまだ十分局面をひっくり返すことは可能だ。
 とりあえず、明日の予定は決まった。 恐らくあの事件のことをメディアより多く、より正確に知っている彼に、ことの次第をきくことにしよう。 期限はまだ十分に残っている。
 彼のカードは底が知れず、未だに提示されているのはまだたったの一枚。
 だけれども。

「改めて。よろしくな、工藤」

 怪盗KIDの名に賭けて、暴いてやろう。真実を。

「あぁ。よろしく」

 伸ばした手は、結局触れ合うこともなく、呆気なく元の位置に戻った。










「ところでキッド、夕飯はまだか?」
「はい?」

 漸く話に一区切りがついたので、ひとまず工藤の寝場所などを確保しようと腰を浮かしたときに突然そう言われ、文字通り目が点になる。

「夕飯・・・・?」
「そ。もしまだだったら俺にも少しくれ」

 もしまだなら、とは言っても、工藤は貰う気満々のようで、にこにこと快斗を見た。それはくれるよねという信用からではなく、くれなきゃどうなるかわかってんだろうなという脅しを含むものだった。いくら快斗でもそんな目線を向けられて、命しらずなことができるはずはない。

「・・・・作らせて頂きます・・・」
「おう」

 がっくりと項垂れ、底冷えしている階段を下りる。肌寒い季節が近づき、朝夕は消え込みが厳しく、今は特に身に染みた。
 とりあえず冷蔵庫を開け、今ある物でいったい何が作れるだろうかと、思案をめぐらせた。