ハリーは自分は世界で一番不幸だと思っていた。 ハリーはまだほんの赤ん坊の頃に事故で両親を失い(実際は殺されたわけだが)、それからは母方の親戚であるダーズリー家で育った。そこでの生活はお世辞にも快適とは言えないもので、従兄であるダドリーには散々嫌な思いをさせられた。 孤独には慣れていた。というより、誰かと肩を寄せ合って過ごしたことなど無かったので孤独を真に理解していなかったのだと思う。少なくとも、ペチュニアおばさんが一日中リビングでダドリーを甘やかしている光景を見るよりは、ダーズリー一家が遠くの動物園に出かけるのを見送る方が、断然喜ばしいことだった。 十一歳の誕生日に自分の正体を知り、ダーズリー家から出られたことは何よりも幸福なことに思えた。あの地獄のような日々から抜け出せ、目の前に広がる新たな世界に胸を躍らせていたあの頃が懐かしい。 幸福に限りはないのでは無いかと思っていた。宿敵ヴォルデモートに命を狙われようとも、ハリーの心には常に希望の灯火があったし、ハリーの側にはロンとハーマイオニーがいて、それだけでどこまでも無敵な気がしていた。 シリウスの存在を知ったときの思いを表す言葉をハリーは持ち得ていない。シリウス・ブラック。ハリーの名付け親。ハリーの後見人。ハリーのたった一人の家族。 父さんの死についての誤解が解け、シリウスが一緒に住もうと言ってくれたとき、どれだけハリーが歓喜したか。あの瞬間が、ハリーにとって最も幸福な時間だった。ハリーの未来は光に照らされ、もう二度と暗闇で足下に怯えることはないのだと本気で思っていた。 つまり、ハリーは愚かだったのだ。 → |