0.銘記の星霜








少年は退屈だった。やるべきことは少なく、やらせることの方が多い。少年は外観に相応しくないほど、人間を思い通りに動かすことが上手かった。起こすべき破壊を誘発させ、育まれゆく再生を助長させる。
今現在少年に指示されている事柄は、これから起きる計画で最も重要である、戦士の発見であった。母親の胎内を模して創られた空間内で、少年は世界を見つめて模索する。残る戦士はあとひとり。先に選んだ彼らは父なる存在の意志にそぐう、世界の歪みによって生み出され歪みにどっぷり浸かったものたちだ。思想、忠誠心、対人関係、能力。全てが創造主の条件を満たした、ある意味地球上で最も憐れな生物ともいえる。
そして、最後のひとり。天使の名を冠した兵器の中で唯一実剣を持ち、誰よりも歪みに近い場所で戦い続けなければならない戦士。それを少年は、長期に渡り探していた。
本来なら、最初に決まっているはずだった存在。パネルには既に何名かの候補が挙がっていたが、その中から選ぶつもりは毛頭無かった。それは常に創造主の思惑通りに進んでいく計画に対する反抗心によるものかもしれない。だが、最後の一人、計画中では最も重要な存在になるであろう人物を、過去の偉人ではなく少年自身の見識で選択したかった。
己が何者でどんな存在であり何を望まれて生み出されたかは熟知しているが、だからといってその通りに生きなければならないというわけでもない。要は計画から脱線しすぎなければいいのだ。
不意に、世界を見つめていた瞳が閉じられる。そして再び開かれた眼には紛うことなき歓喜の色を映しだしていた。
(見つけた。)
予感は、あった。あれだけの地獄にいながら戦うことを止めず駆けていた脆弱な生き物。あれが今なお生き長らえている可能性など無きに等しいというのに、生き延びていると少年はほぼ確信していた。今も忘れることのない激情。己の存在の在り方を示してくれた、愛らしい下等生物との邂逅を、少年は今なお覚えている。

「さて。あの子を迎えにいこうか。」

口元に嘲笑を浮かべながら、暗号化された情報を組織の末端に送信する。さあ、世界の変革を始めようか。




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