あいを語る
ソレスタルビーイングとは、一体何か。 武力による戦争根絶を謳うテロ組織。組織に関する情報は皆無で、クルーやガンダムに関するありとあらゆる情報の詳細が不明。四年前の三カ国連合軍との戦いにより、壊滅したと思われていたが、再び現れ、四年前と同じように世界の至る所で武力介入を開始した。現在、独立治安維持部隊アロウズがソレスタルビーイング討伐に動いている。 以上、客観的考察終了。 はあ、とため息をつく。ここまではいい。わかりやすくシンプルだ。だが、ここに己自身を含めると一気にややこしくなる。 ロックオン・ストラトスなどという馬鹿げたコードネームを持ち、ガンダムを駆り武力介入を行うガンダムマイスターの一人で、立派なソレスタルビーイングの一員だ。 だが困ったことに、俺は純粋に戦争を根絶するためにソレスタルビーイングに入ったわけではない。俺は反政府組織カタロンのメンバーで、本来の目的は、ソレスタルビーイングの情報をカタロンに流しカタロンの被害を軽減し、またその情報を元にソレスタルビーイングの援護などを行うなど、双方のパイプラインになることだ。 それが今やどうだろう。情に絆されたというわけではないが、少なからずソレスタルビーイングに里心がついてきているのを自覚はしている。が、だからといってここが己の帰る場所だとは思えなかった。 先刻たまたま聞こえた会話を思い返す。アレルヤがフェルトに対し、僕らは家族なんだから、と言っていた。フェルトもその言葉に頷いていたが、果たして俺はどうだろうと首を傾げる。 カタロンとソレスタルビーイング両方に所属しているがどちらかというと、カタロン方に比重を置いている。そんな現状であるため、トレミーのクルーは家族かどうかの問いにはノーと答えるより他にない。彼らがただのテロリストではないと知ってはいても、家族と言えるほどクルーと打ち解けてはいないと自覚している。 大体、ロックオンが打ち解けようと努力をしても、クルーの方がなかなかそれに応えようとはしてくれないのだ。ふつふつと軽い苛立ちがわき上がる。現在トレミーで活動しているクルーの殆どは、四年前からずっと苦楽を共にしている。そんな中に、全く関わり合いのない男が配属されるということだけでも打ち解けるのが大変だというのにに、あまつさえ四年前の戦いで戦死したマイスターの弟という立場でもあるのだ。幸か不幸か兄とは双子であるため顔はそっくりだ。当然、今はもういない人間の影を追いたくなる気持ちも理解はできる。 だが、だからといってそれをいつまでも容認できるほど出来た人間ではない。ついフェルトに辛く当たってしまったこともあった。他のクルーとの気まずい沈黙も何度も経験してきた。 そんなこんなで、彼らのことを家族などとはとても思えそうに無い。 はあ、と今日何度目かわからないため息をつく。 フリールームのドアの前で立ち止まる。シュンという音と共にドアがスライドし、足を踏み入れる。あ、と声に出さずにつぶやく。刹那がこちらに背を向けて座っていた。 「よう、あんたも休憩中か?」 「ロックオン・ストラトス。」 手を挙げ笑顔で近づけば、刹那は無表情に頭を上げ俺を視界に映した。携帯端末を片手に、おそらく情報収集でもしていたのだろう。休みもせずによくやると内心あきれる。 「ダブルオーライザーのメンテナンス中だ。最近連戦続きでろくに整備することが出来なかったから、時間が掛かると言われた。」 「なるほど。」 大方、イアンあたりが連戦で疲れがたまっているであろう刹那を休ませるためにそう言ったのだろう。ガンダムのこととなれば、刹那はどんなに疲れていようが全力でやろうとするのだから驚きだ。 そこでふと、興味がわいた。自他共に認めるガンダム馬鹿が、ソレスタルビーイングをどう思っているのかを。 どかりと刹那の向かい側に腰を下ろす。 「なあ、あんたにとってソレスタルビーイングって一体なんだ?」 「戦争を根絶する組織だ。」 「いや、そう言う意味じゃなくてな…。」 間髪入れずに刹那は答えると、興味を失ったのかそのまま視線を携帯端末に落とした。 その答えはわかる。というより模範的な答えだ。訊き方が悪かったかと、もう一度問う。 「そうじゃなくて、なんつーか…。じゃ、トレミーのクルーは?」 「大切な仲間だ。」 これまた間髪入れずに答えられる。今度は視線すらあげてもらえなかった。 だが、仲間、という答えには幾らか同意することができた。ここは戦場だ。家族なんて甘ったれた関係では、この先やっていけない。 大体クルーは皆家族だといっても、そこにロックオンらが加わっているかは甚だ疑問だ。アレルヤやフェルトといった昔なじみ同士であれば、お互いを家族と言い合っても何の不思議は無い。だが、最近クルーに加わったソーマ・ピーリスと古株のフェルトが、家族、というのには違和感を覚える。 アレルヤもアレルヤだ。クルー皆が家族だというのなら、ソーマも家族ということになってしまうではないか。そうじゃないだろう。アレルヤとソーマは。 「ロックオン・ストラトス。」 「んあ?」 「なぜそんなことを聞いた。」 視線は相変わらず下を向いたまま、刹那がきいた。 簡単に、フェルトとアレルヤの会話のあらましを話す(もちろん修羅場のあたりは省いた)。 思えば、刹那もフェルトも五年前のソレスタルビーイング登場時からここにいるのだ。だというのに、二人の間に恋愛感情のようなものを感じたことはないのだから不思議なものだと思う。普通ここまで共通の環境にいたら、二人のどちらかに何らかの感情が芽生えてもおかしくはないというのに。 ピピッという電子音の後、端末の画面が消える。 「フェルトは幼い頃に両親を亡くしている。アレルヤも、幼い頃から家族というものを知らずに過ごしてきた。だから、今のトレミーのような暖かい環境を壊したくはないんだろう。あまり二人を悪く思わないでくれ。」 苦笑しながら刹那は端末を閉じた。その表情にも、やはり慈愛以上の感情は見えず、肩を落とす。 刹那は、端末をポケットに仕舞うと立ち上がった。 「だが、俺個人としてはお前とアニュー・リターナーはお似合いだと思う。」 「……は?」 いつも通りの無表情を顔に貼り付けたまま、刹那は部屋から出ていった。とんでもない爆弾を落として。 その発言に固まったまま、頭をフル回転して考える。 俺とアニューがお似合い?お似合いということは、男女間が、ということだとう。ということはつまり、刹那は知っていたということだ。俺と、アニューの関係を。 誰にもばれていない自信はあった。戦争真っ直中に、なに浮ついたことをしていると怒鳴られるのは目に見えていた。だから、監視カメラの映らない場所で逢い引きを重ねていたのだ。だというのに。 (あまり二人を悪く思わないでくれ。) 「おいおい、マジかよ…。」 つまり、俺はトレミーのクルーを家族だと言ったアレルヤとフェルトに、八つ当たりにも似た苛立ちを向けていたのかと、自己嫌悪に頭を抱えた。 |
090803